『経済数字の読み方(財務省とマスコミに騙されない)』髙橋洋一先生著 その1

高橋洋一先生の著書『財務省とマスコミに騙されない経済数字の読み方』に登場する「106万円の壁の撤廃」についての話です。

この問題の本質は、マスコミが報じる「社会保険の適用拡大(=働く人の安心)」という建前の裏にある、財務省(ひいては政府・厚生労働省)の「社会保険料の徴収強化」という真の狙い(増税スキーム)を経済数字から見抜く点にあります。

すっきりと理解できるように、高橋先生の数量政策学的な視点を踏まえて構造を整理しました。

1. そもそも「106万円の壁」の撤廃とは?

現行の制度では、パートやアルバイトなどの短時間労働者が厚生年金や健康保険(被用者保険)に加入する基準として、「月額賃金8.8万円以上(年収換算で約106万円以上)」という金額の要件があります。

これを「撤廃する」ということは、金額の多寡にかかわらず、「週の労働時間が20時間以上」であれば一律で全員社会保険に強制加入させるというルール変更(いわゆる「20時間の壁」への一本化)を意味します。

2. なぜこれが「大増税」なのか?

高橋先生がこれを「大増税」と断言する理由は、「実質的な人件費・税負担の強制的な引き上げ」だからです。

  • 手取りの激減(労働者側)これまで年収103万〜106万円未満に抑えて「第3号被保険者(扶養内)」として保険料負担がゼロだった層や、そもそも加入義務のなかった低所得層から、容赦なく給与の約15%(健康保険・厚生年金の本人負担分)が労使折半で天引きされます。
  • 企業のコスト急増(雇用主側)社会保険料は労使折半であるため、企業側も同額(約15%)の負担が増えます。これは企業にとっては「法定福利費(人件費)という名の増税」であり、特に中小企業の経営を直撃します。

3. 財務省とマスコミの「数字の騙しカラクリ」

高橋先生が本書で強く批判しているのは、この政策を「将来もらえる年金が増えるから得ですよ」と正当化するマスコミの報道姿勢と、その裏にいる省庁の思惑です。

① 「支払うコスト」と「将来のベネフィット」の非対称性

「保険料を払えば将来の厚生年金が増える」と説明されますが、現在の日本の年金財政の構造(マクロ経済スライド等)を冷徹に計算すると、現役時代にむしり取られる保険料の負担額(コスト)に対して、将来戻ってくる年金の上乗せ分(リターン)の投資効率は決して良くありません。

②  第3号被保険者(専業主婦・主夫層)の解体

一言でいうと、政府・厚生労働省(そして財務省)の究極の狙いは、「これまで1円も保険料を払わずに年金(基礎年金)をもらえていた『第3号被保険者(専業主婦・主夫層)』を事実上、地上から消滅させて、全員から保険料を徴収すること」にあります。

ここに、マスコミが絶対に報じない「大増税」の数字のロジックが隠されています。

4.「第3号被保険者の解体」に隠された数字の罠

現行の日本の年金制度には、以下の3つの区分があります。

区分対象者保険料の支払い
第1号自営業・フリーランス・学生など自分で定額(月約1.7万円)を払う
第2号会社員・公務員など(厚生年金加入者)給与から労使折半(約18.3%)で天引き
第3号第2号に扶養されている配偶者(年収130万未満など)【重要】個人の負担は「0円」

1. 「負担ゼロ」の利権を狙い撃ちにする

第3号被保険者は、自分で保険料を1円も払っていません。なぜなら、夫(または妻)が加入している「厚生年金(第2号)の制度全体」が、その分のコストを間接的に負担しているからです。

国(厚生労働省や財務省)の視点に立つと、少子高齢化で年金財政が火の車である今、この「保険料を1円も払わずに、将来国民年金(基礎年金)を丸々もらえる第3号被保険者」という存在は、最も効率よく財源をむしり取れる「埋蔵金」に見えています。

2. 「106万円の壁の撤廃」= 第3号の自動消滅

政府は「第3号という制度を廃止します」と直接言うと、数千万人の主婦・主夫層から猛烈な大バッシング(選挙での大敗)を受けることを知っています。

そこで使ったのが、今回の「106万円の壁(金額要件)の撤廃」というステルス(隠れ)手法です。

  • 金額の壁をなくし、「週20時間以上」働いている人を全員一律で「第2号(厚生年金加入者)」に強制移行させます。
  • パート主婦・主夫のほとんどは、生活のために週20時間(1日4時間×週5日、あるいは1日7時間×週3日程度)は普通に働いています。
  • つまり、制度そのものを廃止しなくても、加入条件(壁)を極限まで下げるだけで、日本中のパート主婦・主夫の大半が「第3号」から引きずり出され、強制的に「第2号」に変えられてしまうのです。

3. マスコミの「女性の社会進出」という大嘘

マスコミはこれを「第3号の優遇措置をなくすことで、女性の就労の壁をなくし、社会進出を促すフェアな改革だ」と綺麗事でプロモーションします。

しかし、高橋先生が暴く数字の実態は真逆です。

第3号から第2号へ強制移行させられた労働者は、これまで「負担0円」だった状態から、いきなり年収全体の約15%(会社負担分と合わせて約30%)の社会保険料を国に召し上げられることになります。

国側の数字のメリット(本音):

制度を正面から廃止することなく、ただの「適用拡大」という名目で、これまで**「保険料収入:0円」だった巨大なターゲット層から、一気に数千億円〜兆円規模の社会保険料(実質的な大増税)を合法的に徴収できるようになる。**

これが、高橋先生の指摘する「第3号被保険者の解体」の全貌です。綺麗事の裏にあるのは、手段を選ばない過酷な「財源の分捕り合戦」に他なりません。

政府の本音は、少子高齢化で枯渇する年金・医療の財源を確保するために、これまで保険料を納めていなかった「扶養内のパート層」から合法的にカネを徴収することです。これを「女性の社会進出を阻む壁の解消」という綺麗事でパッケージングし、マスコミを使って「壁がなくなってスッキリ働ける」とプロモーションしているのが実態です。

💡 数量政策学的な結論

「106万円の壁」の撤廃は、働き方の選択肢を広げるためではなく、政府が「社会保険料」という名の『第二の消費税(極めて捕捉しやすい一律の税)』を、最も抵抗力の弱い低所得の短時間労働者層から確実に徴収するための網を広げた施策である。だからこそ、高橋先生はこれを「騙されてはいけない大増税」と看破しているのです。

実務で財務分析やライフプランニングのシミュレーションを行う際にも、この「実質的な負担率の上昇」が可処分所得に与えるインパクトを冷徹に織り込むことが、まさに本書の言う「経済数字を正しく読む」ということにつながります。

投稿者: eic1954

岩永FP事務所代表 一級ファイナンシャルプランニング技能士、 日本FP協会CFP認定者

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