「利子率」は現在財と将来財の相対価格である。割り算その5

「現在目の前にある1個のリンゴ」と「将来得られるはずの1個のリンゴ」を考えよう。リンゴそのものが物理的に同一のものであっても、通常はこれらは同じ価値のものとは評価されない。通常は、「現在の1個のリンゴ」のほうが「将来の1個のリンゴ」よりも価値が高いと評価されるのである。

それには、いくつかの理由がある。まず、消費者の側で、現在のリンゴを将来のリンゴより高く評価する心理的な偏りがある。個人の生涯が有限であることが、このような偏りを生む基本的な理由だろう。一方、生産の面でも、現在のリンゴを高く評価する理由がある。

それは、現在の1個のリンゴの種から、将来時点で多数のリンゴが収穫できるからである(こうした事態は、投資から得られる生産物について、一般的に期待されることだ)。

以上のことから、現在のリンゴを単位にとって表わした将来のリンゴの価格をpとすれば、pは1より小さい値となる。「将来のリンゴの価格がpである」とは、「将来のリンゴ1個が、現在のリンゴp個と同じ価値である」ということを意味する。したがって、将来のリンゴ1/p個が現在の1個のリンゴと同じ価値になる。

ところが、通常の財の価格と異なり、将来財の価格は、p=1/(1+r)で定義されるrで表わす習慣がある。したがって、上のことをrを用いていえば、(A)「現在のリンゴ1個と将来のリンゴ(1+r)個とが同じ価値だ」ということになる。あるいは、同じことを、(B)「将来のリンゴ1個と現在のリンゴ1/(1+r)個が同じ価値だ」といってもよい。

(A)の表現をする場合には、rを「利子率」(interest rate)とよぶ。(B)の表現をする場合には、rを「割引率」(discount rate)とよぶ。そして、(B)のことを、「将来のリンゴ1個の『割引現在価値』(discounted present value,あるいは、単に『現在価値』)は1/(1+r)個である」という。

以上で重要なことは、「利子率(あるいは、割引率)は価格である」ということだ。利子率は、現在財と将来財の相対価格なのである。そして、「将来財の割引現在価値が1/(1+r)個だ」というのは、「ミカン2個がリンゴ1個と同じ価値だ」と同じようなことをいっているのである。ただし、用語が特殊なので、特別のことを述べているかのような錯覚に陥り、しばしば混乱が起こる。

『金融工学』著者野口悠紀雄、藤井眞理子のご本の引用文

ファイナンス理論入門には、欠かせない『割引現在価値』という概念の説明文です。じっくり味わいたい含蓄のある内容なので、全文引用させていただきました。野口先生ありがとうございました。この理解が、わたしたちの『金融リテラシー』の基礎になるとわたしは考えています。金融電卓を使えば、より理解が進むと思います。

eic1954

投稿者: eic1954

岩永FP事務所代表 一級ファイナンシャルプランニング技能士、 日本FP協会CFP認定者

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