『HP12cによるときめきひらめき金融数学』木村弘之亮先生の著書との出会いが、私をHP12cに誘い出してくれたキッカケでした。
この15年前の書籍をもう一度、読み込むことが大事だと思うので、今年の記録的な暑い夏に滋養を蓄えるのに打ってつけです。
この8月は、一か月間を通して集中ゼミを自分自身に課したいと思います。どうぞ、よろしくお願いいたします。
木村先生がこのご本で「金融リテラシー」と叫ばれたのは、まさに年金二重課税問題をクローズアップさせ、「金融界や行政が仕掛ける数字のトリックを見抜く護身術を持て」という意味だったのだと、私は改めて気づきました。
金融実務やマーケティングで昔からよく使われる、いわゆる「現在価値(PV)と割引率(i)のレバー(てこ)効果」を利用した数値演出の手口そのものです。
金融数学の原理(HP 12cのTVMロジック)で言えば、キャッシュフロー(\(PMT = 230\)万円 × 10回 = 2,300万円)が固定されている以上、方程式は以下の単純なトレードオフ(逆比例の関係)になります。
毎年230万円(\(PMT\))を10年間受け取る構造を、割引率(\(i\))を使って現在価値(\(PV\))に引き戻す正しい式は、各年の現在価値の「足し算」になります。
\(PV = PMT + \frac{PMT}{(1+i)^1} + \frac{PMT}{(1+i)^2} + \dots + \frac{PMT}{(1+i)^9}\)
これをまとめると、HP 12c の内部で解いている標準的な期首払い年金の公式になります。
\(PV = PMT \times \left( \frac{1 – (1+i)^{-10}}{i} \right) \times (1+i)\)
「受取総額(2,300万円)というゴールデンライン(名目和)が決まっているとき、\(PV\)(元本評価)と \(i\)(割引率)は反対方向に動く」 という関係です。
この仕組みを悪用したり、都合よく歪めたりする金融界の代表的な「手筋」には、以下のようなパターンがあります。
1. 「利回り」を高く見せて商品を売る手法(高利回り演出)
投資商品や変額保険、年金型商品のセールスでよく見られる手法です。
- 手口:顧客に見せる「初期投資額(実質的なPV)」を各種手数料や割引評価などで意図的に小さく見せかける。
- 効果:受取額(\(PMT\))が変わらなくても、元本(\(PV\))を小さく設定するだけで、計算上の内部収益率(IRR)は 13.70% のような「超高利回り」に跳ね上がります。
- 顧客の錯覚:「こんなに高い利回りで運用してくれる素晴らしい商品なんだ!」と誤認してしまいます。
2. 「安さ」を演出するローン・残価設定(アドオン金利・残価設定)
逆に、マイカーローンや住宅ローン、残価設定型ローン(残クレ)で顧客に借金させやすくする場面でも、このロジックが裏返して使われます。
- 手口:毎月の返済額(\(PMT\))を安く見せるために、将来の据置額(残価=\(FV\))を大きく設定したり、元本割引の計算ロジックをブラックボックス化する。
- 効果:一見すると月々の負担が軽く見えますが、HP 12cで実質年率(IRR)を叩くと、見た目の提示金利(アドオン率)を遥かに超える高金利で借りさせられていることが発覚します。
3. 国税庁が陥った(あるいは都合よく使った)罠
最高裁判所第3小法廷が平成22年7月6日に判決をくだし、第1審長崎地裁判決の年金二重課税問題で国税行政がやったことは、金融界の「高利回り演出」の裏返しでした。
- 相続税の段階:通達で「評価額(PV)は6割(1,380万円)でいいですよ」と親切な顔をする。
- 所得税の段階:「PVが1,380万円ということは、2,300万円との差額920万円は全部運用益(13.70%の超高利回り)ですね!雑所得としてたっぷり所得税をいただきます!」と回収する。
税務当局が意識的だったか無知だったかは別として、金融数学的には「元本評価(PV)を叩いて低く見せかけ、その反動で生じた巨大な利息(920万円)から大量の税金をむしり取る」という、金融詐欺にも似た構造的トラップになっていたわけです。
金融リテラシー(HP 12c)の防犯効果
金融商品のセールスや行政の試算で、「お得な評価」や「魅力的な数字」を提示されたとき、HP 12cに \(PV\), \(PMT\), \(n\) を入れて i を一発叩くだけで、「その数字を成立させるために、裏で何%の無理な利回りを前提にしているか」 が1秒で暴かれます。
まとめ
単純な掛け算 \(PV \times (1+i)^n\)ではなく、「毎年受け取る230万円を \(i\)で割り戻して合計したものが \(PV\)になる(=年金現価の和)」 というのが正しい数理構造です。
そして、「2,300万円という総枠の中で、\(PV\)(元本)の取り分を小さくすればするほど、残りの運用益とそれを支える利率 \(i\) が膨れ上がる」というシーソーの関係になっている。