オイラーのもう一つの公式

今回も『超弦理論入門』を参照しています。小川洋子の『博士の愛した数式』(新潮社)で有名になったオイラーの公式は高校数学を学ぶものにとっては一つの大きな峰であろうと思いますが、もう一つの公式が紹介されています。数学者の黒川信重は「滝に打たれたような衝撃である」と評されているそうです。確かに驚きの公式です。

それは1,2,3、・・・と正の数を無限に足していった結果が、マイナスになるというものです。この不思議な公式を発見した数学者が十八世紀のレオンハルト・オイラーでした。皆さんは信じられるでしょうか? 最初、私は目を疑いました。どう見ても「無限大」でしょう!

大栗先生が言っておられるのですが、超弦理論の研究では数学的な整合性が大きな導きの糸になっているとのことです。空間の次元が九であるときに限って、超弦理論に数学的矛盾が起きない。この九という数字をオイラーの公式が導き出すのです。これはあたかも「ユークリッドの公理を仮定すると、三角形の内角の和は一八〇度である」という意味で同等なのだと。純粋に数学的な主張が重力と量子力学を統合する理論で矛盾が生じないことを証明しているとは、まさに黒川信重氏の評そのもののようです。

金融市場にもある「電磁誘導」

この言葉は大栗博司先生の『超弦理論入門』というご本から拾ったものです。これは「電磁気理論」の電場と磁場の間の関係を金融市場での金利と為替の関係に例えて説明されているのですが、私は逆にミクロの世界もマネーの原理(裁定取引)が誘導されていることに驚きを覚えました。

また、「電磁場にも「通貨」がある」とはワイルという数学者が考え出したことで、何か仮想的な通貨があれば、マクスウェル方程式が説明できると指摘したのですが、この仮想的なものとして考えた「電磁場の通貨」の本当の意味が明らかになったのは、その10年後に「量子力学」が完成してからのことだそうです。

つまり、ミクロの世界でも金融為替市場での裁定機会は各国の通貨どうしの相対価値だけで決まるのであって、各国の通貨単位に影響されないという原理が働いているということなのです。「あるものの測り方を変えても力の働き方が変わらない」という原理がゲージ原理です。「ゲージ」とは物差しのように量を測る単位のこと。見方を変えても性質が変わらないことを「対称性がある」といいます。ゲージ原理で物差しを変えるのも「見方を変える」ことになるので対称性の一種です。これを「ゲージ対称性」と呼びます。この文章はすべて上記の本を引用しています。

この考え方が「トポロジカルな弦理論」へと導くキーワードだと私は考えました。先生を含め4人組で研究されていたそうですが、その中の一人はヘッジファンドの重役になっておられるそうです。「マネーの世界」と「ミクロの世界」は相通じるものがあることは間違いないと私は思いますが、みなさんはどう感じられたでしょうか?