量子力学

この「原子と光の物理学」では、「光は粒子でもあり波でもある」と同時に、私達のこの世界を作っている「物質もまた粒子でもあり波でもある」という常識外れの途轍もない結論を導き出したのです。

量子力学に於いては、「虚数」は最早、想像上の数などではないのです。

本当に不思議なことに、私たちの実際の生活に極めて役に立っているのである。二十世紀、現代の文明の殆どすべては、虚数の働き無しには考えられない。これは信じられないかもしれないが、本当の事である。俗に「事実は小説より奇なり」と云うが、これに倣えば、「物理はSFよりも奇なり」である。以上の文章は『虚数の情緒』(吉田武著)から引用したものです。

上記の著書は「中学生からの全方位独学法」という副題がつけてある通り、なぜ私たちは数学を学ぶのかという疑問に答えてくれる素晴らしい本です。もっと若い時に出会っていたならばと後悔の念に駆られる自分です。

複素数の世界

『イイおっぱいの愛人は一人もいない』という語呂合わせの言葉をご存じだろうか。これはオイラーの公式を忘れないように表現したものだといわれています。オイラーがこの公式を発見したきっかけを大栗先生は、前述に紹介した本の中で述べられています。

また、この公式の重要性に触れられている文章をそのまま引用します。『数学が発達していくと、これまで別々だと思われていたものの間に、思いがけない結びつきが見つかることがある。三角関数は古代ギリシャの時代から研究されていた平面幾何の研究から生まれた。一方、指数関数は、ブラーエの天文学に触発されて、ネイピアが大きな数の計算を簡単化するために開発した。生まれも育ちもまったく異なる2つ関数だが、「空想の数」、つまり複素数の世界では深く結びついていたんだ。数学は人間が自然を理解するために作り出したものだが、いったんできてしまうと、人間の都合とはお構いなしに、自分自身の生命を持って発展していく。今回話した三角関数と指数関数の関係にしても、人間が作り出したものというよりも、オイラーのような探検者たちが、数学の世界の中にすでにあつたものを発見したのだと思う。複素数はもともとは人間が空想した数だったが、人間の住む現実の世界と独立に広がっている数学の世界の中に、確かに存在している数でもある。』

私たちは、数学を、「無機質な論理だけの冷たい世界」と敬遠するのではなく、虚数の実在性を納得することで、まったく、新しい世界に踏み出すことができるのです。