先物為替2

前回の例題①と同じ状態を考える。今回は1年先物のドルが92円であった場合はどうだろうか。

先物レートは理論値と比べて円高ドル安である。したがって、先物のドルを1ドル買建てる。現物のドルを借りる。1年後に買うドルで返済するので1ドルを6%で割引いた額を【TVM】キーで計算すると、以下のようになる。

1. 【FV】キーに割引かれる数値をストアする。ここでは1ドルだ。

2. 年と金利を各々、【n】【i】キーにストアする。ここでは1年と6%だ。

3. 最後に、【PV】【CHS】キーを押すと、0.9434という数値が算出された。

この0.9434ドルを借入れる。借りたドルを売って円を94.34円買い、2%で運用する。1年後に92円で1ドルを現引きする(決済する)。このドルは借入金の返済に充てる。そうすると、預金の満期金96.23円なのでネットで4.23円の儲け。

ここでのポイントは「現物のドルを借りて、そのドルをすぐに売って円を買う。」というアービトラージ(裁定取引)なところと、割引額の計算を【TVM】キーで済ますことです。例題のように1年だったら筆算でもやれますが、10年ともなれば、金融電卓に手助けしてもらいましょう!

因みに、前回は「円を借りてドルを買う。」でした。

先物価格は現物価格を金利で割引いた額なのでした。【TVM】キーを使いましょう!

以上、前回同様、『証券アナリストのための数学再入門』(金子誠一著)を参考にしています。

 

 

先物為替(為替の先物取引)

先物取引は、外国為替においてとくに重要である。日本の輸出入業者は為替変動リスクを為替の先物予約でカバーしている。

通貨の場合はドルの買建ては円の売建てであり、ドルの売建ては円の買建てであるので頭が混乱します。以下の具体例で考えてみましょう。

① 1ドル100円、1年物の円金利は2%、ドル金利は6%とする。1年先物のドルはいくらか。

「現物価格は先物価格を金利で割引いた額に等しい。」の原則を思い出してほしい。また、前日の記事にある、無裁定条件の先物理論値は為替変動率を金利として『TVM』メニューを使えば簡単に算出されます。では、やってみましょう。

ここで注意が必要なことは、上にも書きましたが、円を売ったことはドルを買ったことになりますので、どちらを基数にするかを考えます。ここでは円を基数にします。

1. 1.02【ENTER】1.06【Δ%】【i】を押して3.92という数値をストアする。

2. 1【n】100【FV】を押して割引いた額を出す準備をする。

3. 【PV】【CHS】を押して理論値96.23円が算出されました。

② ①と同じ状況で1年先物のドル・レートは100円であった。この時、どのような裁定取引が可能か

先物レートは理論値96.23円に比べてドル高円安、そこで、先物のドルを1ドル売建てる。1年後に売るためのドルをいま買う。1年間6%で運用するので、以下のドルだけ買えばよい。

1. 1【FV】6【i】1【n】を押してストアする。

2. 【PV】【CHS】を押すと、0.9434㌦が算出される。

このために必要な円、94.34円は金利2%で借入れる。1年後に1ドルを決済して100円を得る。円の元利合計96.23円(94.34×1.02)を返済するとネットで3.77円の儲けとなる。

以上は『証券アナリストのための数学再入門』(金子誠一著)を参考にしています。

 

 

外国為替レートと『TVM』

木村先生の『HP⒓cによるときめきひらめき金融数学』の最終章に掲載されている設例126を考えてみよう。「ドル建て債に投資すべきか、円建て債に投資すべきか。」

今から1年間、金利10%の1000㌦のドル建て債に投資するか、金利2%の円建て債に投資するかという問題なのだが、先生とは違った方法で考えてみたい。

以前、紹介した『ファイナンス数学の基礎』の小林道正先生の『数』はたくさんの具体的な量から抽象化された概念であるとみると、この問題で扱われている数は外延量と内包量に分けて区別しないと間違った演算をしてしまう危険がある。外延量では足し算や引き算は使える。内包量は掛け算や割り算に関係しているということだった。

1年、1000㌦は外延量、10%、2%は内包量である。また、この問題は為替レートを問う問題で内包量を考えなければならない。

1年後に1.1倍になるドルの価値と1.02倍になる円の価値が等しくなるにはどれだけ円の価値が変化しなくてはいけないかを演算するには割り算で対応することにすぐに気づくと思う。

ここで円に対する価値変化を見るのだから分母は1.02、分子が1.1だし、両者とも内包量なので割り算が意味のある数値である変化率(内包量)を導き出す。答えはHP12C の【Δ%】キーを使えば、一発に7.84%が出てきてしまう。

反対に、ドルの価値の変化をベースに計算すると、-7.27%になるのでドル安になる。

木村先生のステップ1からステップ4を踏んでいけば答えは導き出せるのだが、私としては違和感を感じた。みなさんも考えてみてください。

為替レートの問題は先物価格と現物価格の無裁定条件と同じで難しいように考えがちだが、『TVM』を知ってしまったわたしたちは先物価格を金利で割引いた額が現物価格に等しいという無裁定条件を考え出すことができる。

 

 

『AMORT』メニュー

「HP⒓c」の金融電卓は3つ目の機能メニューとして【f】【AMORT】キーをあげることができる。これは「amortization」の略で「ローンの償還」を計算してくれる。

操作手順を以下に掲載

1. 返済期間の年数入力し【g】【n】を押して月数をストアする。

2. 年利率の数値入力して【g】【i】を押して月率をストアする。

3. ローンの金額を【PV】にストアする。

4. 【PMT】【CHS】キーを押すと毎月の返済額が表示される。

5. 【g】【END】キーで期末支払とする。

6. 12【f】【AMORT】キーを押すと第1年度の支払のうち利子部分が表示

7. 【X><Y】キーを押す。第1年度の支払のうち元本部分を表示

8. 【RCL】【PV】キーを押すと、第1年度末のローン残高を表示

9. 【RCL】【n】キーを押すと、12と表示(償還済み支払回数総数)

10. 6から9の段階を繰り返すだけで償還スケジュール表を作成できる。

『HP⒓cによるときめきひらめき金融数学』のご本には第21章の頁に年金二重課税事件(最判平成22年7月6日)の事例研究が載っています。こんなところにも、金融電卓を使って計算し、解決を図っています。そうです。木村先生は国際税理法律事務所のエキスパートなのでした。

人の一生は時間の使い方で決まる!

この言葉は『経営トップが綴る毎日の言葉』の中の9月28日分として掲載されているものです。サンゲツの元社長日比賢昭氏の書かれた文章です。是非、お読みください。
「時は人間の消費しうるもののなかで、もっとも貴重なものです。時間ほど万人に平等なものはなく、能力のあるなしも、貧富の差も関係なく、一日は二十四時間という時間は等しく与えられます。そして、時間は蓄えることができず、過ぎ去った時間はお金で買うことも再び手に入れることもできません。

このような貴重な時間を形がなく目に見えないためか、無神経に無関心に過ごしている人が多いのに驚きます。時間を半分にしか使えない人もあれば、時間を二倍・三倍も有効に使っている人もあります。

また、時間を有効に使う人はお金の使い方も上手です。「お金はコツコツ貯めて大きく使え」といわれるように時間も全く同じです。そして価値ある仕事は充実した長い時間をかけなければ手にすることができません。

「ゆっくり歩けば遠くへ行ける」、この言葉は急がず、たゆまず高い目標を持って毎日を積み重ねていくことが最も大切であることを教えております。」」

私はこの言葉に会えて幸せな気持ちになりました。この時を大切にしたいと思いました。作者はもうお亡くなりになっておられました。

投資についての『TVM』

わたしたちが『TVM』のコンセプトと計算法を学ぶのはなぜでしょうか? それは、現在の投資と将来の利益を評価するからです。そのため、異なる時点間における価値を比較しなければなりません。金融の世界における取引の多くは、『TVM』に基礎をおいています。このコンセプトを理解することが『金融リテラシー』のセミナーでの中心課題であるべきだと私は考えます。

この概念は奥が深いです。私自身も長年にわたり勉強してきたのですが、新たな発見があり驚いています。だからこそ、HP12cが手放せません。使っているうちに理解が深化していくからだと思います。

私は金融電卓を使わず数式だけで、または6つの係数表で理解させるテキストを勉強させられたのですが、頭が悪いせいかどうしても腑に落ちませんでした。そうこうしているうちにCFP認定者になるためにはここの理解力よりはもっと多くの事柄を知らなければ合格はおぼつきません。

そういう時、2つのご本に私はめぐり逢いました。そのときの感動は今でも残っています。『物語で読み解くファイナンス入門』(森平爽一郎著)、『HP12cによるときめきひらめき金融数学』(木村弘之亮著)です。なかでも、木村先生にはメールで感想を述べたところ返事をいただき恐縮した記憶があります。前著は森平先生のアメリカでの大学時代に金融電卓が普通に使われていたことや帰国されて同じ電卓を探したが見つからなかったということ、後著では電卓開発者に問い合わせし、金融数学に電卓をどういう風に使いこなすのかをご紹介いただいています。

まさに、『TVM』の理解力こそがCFP認定者たるゆえんであるという信念は年を追うごとに強くなっていきました。

どうか、みなさんも諦めないで『TVM』の考え方を日本では理解できない土壌なのだという認識に立ち、金融電卓を手元に置いてチャレンジしてください。

最後に、後著の推薦のしおりに米田隆氏が書かれている言葉を紹介しよう。「新しい時代を生きるために必要となる知恵の礎の一つとなるのが『金融リテラシー』だ。」この言葉は2008年に書かれていますからだいぶ昔になりましたが、未だに金融環境は変わっていないことを危惧しているのは私一人だけでしょうか?

Cash Flow,『CF』メニュー

『TVM』メニューでは2つだけのキャッシュフローの単純な投資の利回りを計算するのに使用しますが、2つ以上のキャッシュフローがある投資については、これではキャッシュフローごとの合計が必要になり面倒です。

そこで、このような計算に対応するメニューが『CF』メニューなのです。HP 12c電卓の真ん中から左側、法面の青文字です。

年金などの定期定額の複数のキャッシュフロー流列は『TVM』メニューの【PMT】キーで計算できるのですが、不規則なキャッシュフローをうまく処理するのに使用します。

(複数のキャッシュフロー流列の将来価値FV)

『TVM』メニューでは各時点で入金された金額の将来価値FVを計算してそれを全て合計するという手間がかかるのですが、『CF』メニューでは以下の手順で計算します。

1. 初めの時点の入金額を入力して【g】【CF0】を押してストアする。

2. 次の時点の入金額を入力して【g】【CFj】を押してストアする。

3. 利率を【i】に、年数を【n】にストアする。

4. 【f】【NPV】を押して入金の正味現在価値NPVを算出する。

5. 【CHS】【PV】【FV】をおして入金の純将来価値NFVを算出する。

(複数のキャッシュフロー流列の現在価値PV)

1. 現時点では出金はないので、0【g】【CF0】を押してストアする。

2. 1年後の出金額を入力して【CHS】【g】【CFj】を押してストアする。

3. 2年後の出金額を入力し、【CHS】【g】【CFj】を押してストアする。

4. 利率を【i】に、年数を【n】にストアする。

5. 【f】【NPV】を押して出金の正味現在価値NPVを算出する。

入金、出金が期間ごとに入り組んでいるような複雑なキャッシュフローの場合にも順序良く入金では数値をそのまま入力し、出金では【CHS】を使って入力するだけです。ポイントはキャッシュフロー図(まず、横線は時間線で複利の計算期間ごとに区切ります。お金を受け取るときは↑が上向き、支払うときは↓を下向きを付けます)を書いて確認することです。また、もう1つ【Nj】キーが【FV】のキーの法面にありますが、これは同じ数値が連続してある場合に使用するものです。

 

収益率の数学

(収益率)

収益の効率性を表すのに便利なように、投資額の1円当たりの収益を表す量を使う、これを収益率という。

一般に、時間的、空間的にひろがりを表す量を「外延量」という。重さ、体積、時間、金額、投資金額、収益、人口、資本金などは外延量である。2つの外延量A、Bがあるとき、「量Bの単位当たりの量A」を「内包量」という。速さ、利率、人口増加率、失業率などは内包量である。

2つの外延量から内包量を求める計算が「割り算」である。

収益率も内包量の1つであり、収益を投資額で割って得られる。投資額の単位当たりに対する収益を表す量である。

(内部収益率)

現在価値PVと将来価値FVの間を結ぶのは、利率や収益率である。はじめに利率や収益率が外から与えられて、それを用いてPVとFVの関係が規程される。

これに対して、現在価値と将来価値が定まっていて、その間の関係を規定する率が計算の上から求められる場合がある。この場合には現在価値は投資額となり、将来価値は将来もたらされる収入となる。このような場合の率はいわば内部から定まる収益率であり、これを「内部収益率IRR」という。これの算出には、【TVM】メニューに【f】【IRR】キーが用意されている。

投資額と将来もたらされるキャッシュフローが与えられたとき、どのくらいの利率で運用したことに相当するかという場合の利率にほかならない。

あるいは、コストと回収リターンの現在価値が等しくなるような割引率といってもよい。

さらには、予想収益の現在価値を供給価格に等しくするような割引率として、ケインズの「資本の限界効率」とも等しい概念である。

複利計算による債券の利回りは実はここでいう内部収益率にほかならない。

以上は、『ファイナンス数学の基礎』(小林道正著)を引用しております。

【TVM】メニューにはわたしたちがイメージしづらい内包量の概念(割り算という数学)を理解する手助けをしてくれるという機能があるのです。

Time Value of Money,『TVM』

わたしたちの人生においては「時間」という最も重要な資源をより深く考慮すべきですが、同じように「マネーの世界」も「時間価値」というコンセプト(概念)を中心に回っています。

この概念を理解するには【TVM】メニューのある金融電卓を手元に置いて具体的に数値を当てはめて計算をやってみなければなりません。

【TVM】メニューとは電卓の左側最上段にある、以下の5つのキーを指しています。

【n】 【i】 【PV】 【PMT】 【FV】

 

この概念はわたしたちが思っているよりも深い内容があると私は思っています。

わたしたちの思考は「時間価値」をイメージするのに慣れていないのです。何故か? 私は当然だと思います。わたしたちは本当の意味で「マネーの世界」に身を置いていないのですから。 電子マネーや仮想通貨の誕生でなおさら複雑怪奇な世界に変容しているように見える「マネーの世界」はわたしたちの常識ではイメージ出来ません。しかし、ベースにある考え方は「時間価値」という概念をどうとらえるかにかかっていると考えます。「仮想空間」を非常識に考えるのではなく、現実の世界として受け入れるには『TVM』をベースに思考するしかありません。

 

金融電卓5

プログラムの作成

これはHP12cの大きな特徴で、あることを計算したいときに計算手順を自分で考えて操作順番を書く。それを電卓に記憶させることによって、1つのキーを押してプログラムをスタートさせれば自動的に答えを計算してくれるという機能です。この機能は応用範囲を広げるし、計算の自動化のメリットというだけではなく、考える力を養う上でも大事なことだと思います。

1. 計算したときのキー操作順序を紙に書いてまとめます。

2. 使用したいモードを選びます(【f】【RPN】か【f】【ALG】を押して)。

3. 【f】【P/R】を押して電卓をPRGMモードに設定します。

4. ステップ1で書き込んだキー操作の順序通りにキーを押します。ただし、プログラムを使うときに異なる数値を入力する部分だけは飛ばします。

プログラムの実行

1. 【f】【P/R】

2. プログラムの作成ステップ4で説明した飛ばした部分に必要な数値を入力します。

3. 【R/S】を押してプログラムをスタートさせます。

 

このプログラム作成によって複雑な各種の金利計算が可能になります。たとえば、家を買うか借家にするかの決定は難しい問題です。短期間の保有と借家との比較はとりわけ難問ですが、このプログラム化は大変わたしたちの決断に役に立つと思われます。

専門的な使い方として、ユーザーズガイドには「ヨーロピアンオプションにおけるブラック・ショールズ式」などを紹介しています。Black-Sholes fomulaは1970年代初頭に発表されて以来、世界中のオプションマーケットで広く利用されているそうです。

最後に、

名目金利(Nominal Interest)から実質金利(Effective Interest)への換算

1. 【g】【END】と【f】CLEAR【FIN】を押す。

2. 名目金利(%)を入力して【ENTER】を押す。

3. 年間の複利計算回数を入力してから【n】【÷】【i】を押す。

4. 【CHS】【PMT】【FV】を押すとそれが実質金利。

実質金利から名目金利への換算

1. 年間複利回数を入力して【n】を押す。

2. 100を入力して【PV】を押す。

3. 実質金利(%)を入力して【+】【CHS】【FV】【i】の順に押す。

4. 【RCL】【n】【✖】を押すと名目金利が求められます。

名目金利から連続実質金利への換算

これは名目金利から連続実質金利(複利の計算期間を極限まで短くしたときの実質金利)

1. 1【ENTER】を押す。

2. 年間名目金利(%)を入力して【%】を押す。

3. 【g】【e×】【Δ%】の順に押す。

ここでの指数関数の底eとはどのような数値なのかを発見するのも金融電卓ならではの自在性をフルに活用して、自分で試されることをお勧めしたい!

以上、HP12cPlatinum金融電卓 ユーザーズガイドより引用